ACLの活用:複数の分析軸
執筆者 後藤 聡
執行役員
■国際認定CAATs技術者(ICCP)
大手監査法人において、IT戦略・計画策定支援、内部監査支援、財務諸表・内部統制監査の一環としてのIT監査等に従事。2018年より三恵ビジネスコンサルティング株式会社に入社。現在CAATs導入支援、業務改善支援等に従事。
『02.統計分析手法(偏差値)を利用した分析シナリオ例』では、売上実績データで保持する販売単価に着目し、統計分析手法の1つである「偏差値」の考え方を取り入れて、異常な兆候を示す取引を識別する方法を解説しました。
このように、分析対象とするデータから異常なレコードを識別する上で、特定のデータ項目に着目して外れ値を特定するアプローチは、実務においても活用されているのではないかと思います。
但し、実際には、ある特定の分析軸(例えば、「販売単価」)のみで異常な取引をあぶりだすことは難しく、複数の分析軸(例えば、「販売単価」、「仕入単価」、「販売数量」)を組み合わせて、怪しいものを絞り込んでいくことが有効な場合があります。
ここでは、複数の分析軸でデータを絞り込んでいくためのテクニックの一つをご紹介します。
なお、難しいコマンドや関数は使用しておらず、演算フィールドの定義(DEFINE FIELD . . . COMPUTED コマンド)を習得していれば、活用することができますので、是非、実務にも取り入れてみてください。
■複数の分析軸をもちいて、異常なレコードを識別するためのテクニック
売上実績データにおいて、「販売単価」、「仕入単価」、「販売数量」の各々で異常な兆候を示す取引を識別する方法を、例として解説します。
ステップ1:分析軸毎に、異常値を識別するためのフィールドを作成する。
『02.統計分析手法(偏差値)を利用した分析シナリオ例』にあるように、「偏差値」などを活用して異常値を識別するためのフィールドを作成します。
ステップ2:分析軸毎に、異常値に該当するか否かの判定フィールドを作成する。
ステップ1で作成した異常値を識別するためのフィールド上で、異常値に該当するものには判定フラグ「1」、異常値に該当しないものには判定フラグ「0」を付与します。
(ここでは、偏差値が30未満ないしは70超を、異常な兆候を示す外れ値と見做して、判定フラグを付与しています。)
なお、判定フラグは、以下のように条件付きの演算フィールドを定義することで作成できます。
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DEFINE FIELD 判定フラグ_●●● COMPUTED
1 IF ( 偏差値_●●● > 70 )OR ( 偏差値_●●● < 30 )
0
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ステップ3:各分析軸の判定フィールドの合計値を算定する。
ステップ2で作成した判定フラグのフィールド値を集計するフィールドを作成します。
なお、集計フィールドは、以下のように演算フィールドを定義することで作成できます。
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DEFINE FIELD 判定フラグ_合計 COMPUTED 判定フラグ_販売単価 + 判定フラグ_仕入単価 + 判定フラグ_販売数量
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これで、判定フラグ(合計)の値をみれば、いくつの分析軸で異常な兆候を示すと判定されたデータであるのか、一目で分かるようになります。
また、判定フラグ(合計)の値が大きいデータ(取引)から調査の対象とするなど、優先度の判断もしやすくなってきます。
まとめ
このように、簡単なコマンドでも使い方や工夫によって、分析の幅が広がってきますので、是非、業務でも活用してみてください。